MAXQDA 2018で気候変動に関する認識を理解 - 内容分析の研究例

MAXQDA Research Blog 翻訳版

Guest article by Professional MAXQDA Trainer Dr. Leandro Mahalem de Lima.(June 11, 2019)

人為的に引き起こされている気候変動を証拠づけるものは、現代の気象科学だけではありません。長年わたる食糧生産の習慣を通じ各地でそれぞれ起きている変化を見ていく中で、世界中で伝統的な暮らしを営む人々は現在起きている問題を予期していました。

私の気候変動に関する認識の研究は、中央ブラジル、アマゾニアで3つの大河(アラピウン、タパホス、アマゾン)が合流する区域に住む少数先住民の2つのコミュニティに注目しました。アラウピンとタパホスでは、漁業と狩猟、そして焼き畑農業が主な食糧調達手段です。

湖と夏のコミュニティ、そして耕作地を焼いている様子 (De Lima, 2012)

この研究にあたり、世界各地で活動するエスノグラファーのグループが開発、研究した一般的な混合方法論の手順を検討しました。予備分析は、Giovanni Bennardoによって編集された「Cultural Models of Nature: Primary Food Producers and Climate Change」 (Routledge, 2019)でご覧いただけます。

インタビューデータの分析とマッピング

2015年のフィールドワークで集めた言語的データを、語、文章、対話レベルで分析するために、MAXQDAの機能を探索していきました。MAXQDA Research Blogでその過程をご紹介するのはこれが2回目です。

前回(詳細はこちら)は、予備的に行った半構造化インタビュー18件の小規模サンプルのコンテンツを対象として[単語の頻度]分析を行い、内在する顕著な35カテゴリーを俯瞰しマップしました。

図1:MAXQDA Maps機能で、インタビュー内の頻出語をマッピング

この投稿では、個々の回答者が挙げた気候温暖化のテーマや根拠となるパターン、複数のケースに当てはまる変動要因などの実例を、MAXQDAでどのように分析しマッピングしたかを紹介したいと思います。

インタビューにおける主題に対する間接的なアプローチ

採用した半構造化インタビューのプロトコルの中で、参加者たちは食糧生産に関わる習慣と問題について話すよう促されていることを重要な点として強調しておきます。具体的な問題は参加者たちが言及するまでは隠されています。直接尋ねていないにも関わらず、多くの参加者がどこかの時点で、地域の気候が温暖化していることに言及しているのは注目に値しました。

こうしたコメントがインタビューのあちこちに散らばっている場合、CAQDAS(Computer-assisted qualitative data analysis)ソフトウェアは以下の点で便利です:

  1. 特定の発言を検索する
  2. さまざまなコーディング戦略を利用しながら、主題をテーマごとにまとめあげる
  3. 混合研究、視覚化ツールを使い、コード付セグメントを分析する

MAXQDA 2018はこれらの結果にいたるための使いやすいツールを提供しています。

テーマを見つけ出すためにキーワードを見出し化する

言語学では「見出し語」とは一連の単語の辞書形式のこと(例:see)で、一方その語形が変化したものを「語彙素」と呼ばれます(例:seeing、saw)。内容分析では、「見出し語化」、つまり異なる形式の言葉を統一することは、特定のコンセプトがどのように述べられているか調べる上で非常に役立つツールとなり得ます。

MAXQDAのMAXDictio機能では、ポルトガル語を含むさまざまな言語の[単語の頻度]や[単語の組合わせ]を見出し語化することができます。

図2:MAXQDAの[単語の頻度]と[単語の組合せ]メニューの[見出し語をつける]オプション

例えば温暖化問題を調査している際、そのアイディアを表現しているさまざまな言葉を見つけコード化するために、見出し語化の機能を使いました。見出し語リストを見ると私が指定した04見出し語(+05語彙素)は以下のようにしなっています:quentar (quente), esquentar (esquentava, esquente, esquenta, esquentou), quentura, calor.

リスト上のこれらの見出し語は、二通りの簡単な方法でまとめられます:

  1. 単語をもう一方にドラッグ&ドロップ、まとめられた見出し語をダブルクリックすることで、見出し語のバリエーションを含む全てのフレーズをコーディングする
  2. MAXQDAのコードシステムウィンドウ 上で、見出し語をコードに変換し、コードをコピー&ペーストで統合する

2つ目のやり方はより時間がかかりますが、コーディングの経過をすべて記録しておきたい場合には良い方法かもしれません。どちらの方法をとったとしても、最終的なコードリストの「Warm」には69の文章が自動的にコードされ、気候変動を語る文章がまとまっていると思われます。

コード化されたカテゴリーから内容分析へ

ここから内容分析に進むには、まず単純にコード(例えばWarm)をダブルクリックしMAXQDAの[検索済セグメント]ウィンドウに対応するセグメントを開きます。もしくは、コーディングされたセグメントと変数(例えば性別、年齢、学歴)を関係づけるようデザインされた混合研究法機能のうち補完的な役割をもつ2つの機能を利用して、検索基準を改良しても良いかもしれません。MAXQDAの[クロス表]機能は数値のテーブルを作成、一方[インタラクティブな引用マトリックス]はコーディングセグメントの全文を確認することができます。

分析がこの段階まで来ると、参加者個々人のインタビューの中で気候変化のテーマが取り上げられているか、あるとすればどのように語られているかを知りたくなります。そこで私は彼らの名前を変数値として使うことにしました。

図3:MAXQDAの[クロス表] すべての名前を一度に選択し、[全ての変数値を条件として挿入する]オプションを選択

[インタラクティブな引用マトリックス]は、こうした内容分析では大きな効果を発揮します。注目したいフレーズを見つけたら、すぐに元のテキストに戻り、手作業でコーディングを改良していきます。

図4:”warming”関連し自動コードされたフレーズの[インタラクティブな引用マトリックス] セグメントの上で右クリックすると簡単に元のテキストの戻れる

こうした方法論的戦略を用い、“Climate change propositions”と名付けた新しいコードグループに20のテキストセグメントを集めました。また、2つの対立する視点を表すためのサブ・コードを作成することで内容分析の根拠を示すことができます。

  1. 気候は、森林伐採を主とした人間による破壊のため温暖化している
  2. 気候は、自然の力と神の意志によって定期的かつ予測不能に変化している

図5: 個々人の気候変化に対する認識

上のクロス表から、一人の男性を除くすべての人が気候変動については話しており、3人の女性がこの課題を2度にわたって挙げていることがわかります。この若い男性と3人の”数値的に顕著な”女性の間での頻出語を比較(以前の投稿を参照)したところ興味深い点が見つかりました。

図6: MAXQDA2018からExcelにエクスポートした頻出語比較

漁師はmoon(月)とFish(魚)について話しているのに対し、女性たちはplant(植物・植栽)とgarden(菜園・園芸)に注目していることにお気づきになるでしょう。この対比は、参加者たちにとって気候変動は漁業ではなく土壌や耕作地に関連した課題であるという示唆を与えています。

アラピウン川でボートに乗る漁師(De Lima, 2012)

気候変動に関し評価している意見を数値化する

個人ごとのコード化されたセグメントの量を示すクロス表(上記)を作成する際、ここからは温暖化の原因は人間の活動である(または、人間の活動ではない)と考える人の割合は確認できない点に注意することが重要です。この結果を得るためには、[コード付セグメントの数]を、個々人(またはほかの分析単位)が一つの値または回答をもつ評価カテゴリーに変換する必要があります。

コード‘Climate change perceptions’の上で右クリックし、[文書変数に変換]を選択します。結果を確認するため、[変数]メニューの[文書変数のデータ編集]を開きます。

図7: 文書変数のデータ編集

[変数]メニューの[文書変数の統計]を使用しまし、そしてその結果を、[頻度]、[パーセンテージ]、[パーセンテージ(有効)](欠損地を除いたもの)の表で表示します。

図8:文書変数の統計表

図8から、アラピウンとタパホスの77%~80%が、人間が温暖化の原因であると考えていることがわかります。サンプルは小規模で探索的なものではありますが、この課題を話すよう直接的に依頼したわけではなく参加者たちが自分の問題として挙げている点を考慮すると、とても印象的な数値です。

図9:文書変数統計のチャート

主張とコードの接続と因果関係を視覚化する

気候変動の問題に関する20の主張とコードの共起関係をマップすることは、根底にあるコントラストと因果関係を探るには良い方法です。そのために、前の投稿で示した35のカテゴリセットに視点を戻し、特定の分野に着目しながら多層構造を詳しく調べる必要があります。

参加者が気候変動に抱く特定の主張を示すため、リストには含まれていない頻出10単語のうちの04を使用してカテゴリーシステムを拡張しました。最後にMAXQDAMapsを使用しコードの共起を視覚化しています。

  • まず、[新規のマップ]を作成
  • “Climate change propositions”を空白部分にドラッグ
  • この課題に対する2つの対立する発言を右クリックから選択
  • その後、2つの発言それぞれの上で右クリックし、共起しているコードのインポートを選択
  • 最後にスペース内でのコードの配置を自由に調整し、以下のモデルにたどり着く

図10:気候変化に関するコードの共起を示したMAXQDAMap

このモデルは、参加者たちは気候変動は森林破壊によって起きていると認識しており、その影響を植物や耕作から直接的に感じていることを示しています。気候変動について、人間がその原因ではないと語る人々には神の意志を強調する傾向が見られます。この文脈のフレームワークでは、Fish(魚)が一方に際立っていますが、気候変動との関係は見て取れません。

研究対象地域の森林破壊状況(Extracted from: ImazonGeo)

結論

今回のサンプルは小規模で探索的なものでしたが、温暖化は森林破壊によるものであり植物や耕作に直接影響を受けているという、地域の強いコンセンサス(77%~80%)は、過去50年にわたり地球科学者が記している森林破壊の拡大と一致しています。

気候変動の認識に関するこの研究は、地域規模で気候問題を理解し緩和するために、先住民コミュニティによって提供された証拠に基づく結論の重要性を強調しています。コンピュータ支援による質的データ分析は、地域の考え方を理解し、意味のある表や概念図に変換する新しい方法をもたらします。 これらの新しい分析ツールは、根拠に基づき科学者と先住者が新たな開発計画を共同で構築する際の助けとなるかもしれません。

About Author

Leandro Mahalem de Lima has a Ph.D. in Social Anthropology from the University of Sao Paulo, Brazil. Currently he is a researcher at the Sao Paulo School of Economics – FGV and a Professional MAXQDA Trainer. Click here to learn more about his research, publications, and training/consulting activities.

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