タイタニック号データセットとMAXQDAを用いて混合研究法を教える

MAXQDA Research Blog 翻訳版

Monday, May 31, 2021

混合研究法に使用できる無料のデータセットはまだ少数しかありません。この課題の少なくとも一部を解決するために、私たちはタイタニック号のデータセットを公開することにしました。
https://sepia2.unil.ch/wp/mixedmethodstitanic

何年も前からこのタイタニック号データセットを混合研究法の教育に使用していますが、いつも非常に効果的です。学生たちは、歴史的事件としてのタイタニック号と、性別や階級と生存確率との見事な相関関係の両方に興味を持ちます。この例の素晴らしいところは、単一手法によるタイタニック号乗船者の生存確率の分析よりも、混合研究法による分析の方が実際に優れていると示せることです。この分析では、独立変数と従属変数の関係をモデル化するだけでなく、生存確率の違いをもたらしたメカニズムを再構築できます。

1912年4月10日 サウサンプトンを出港するRMSタイタニック(出典: Wikimedia Commons)

上記のサイトでは、MAXQDA形式の生存者証言データ(n=214)と、タイタニック号の死亡者と生存者を示す有名な定量的データセット(n=2207)をダウンロードできます。質的データセットと量的データセットはリンクされており、混合研究法による分析が可能です。ステップ・バイ・ステップの演習教育的論文、および混合研究法データセットを使用した他の出版物2点も掲載しています(Stolz and Lindemann 2019; Stolz, Lindemann and Antonietti 2018)。

私たちは常にリサーチクエスチョンから授業を始めます。タイタニック号の生存確率の高低を説明するものは何か?学生たちと一緒に最初の仮説を立て、タイタニック号での生存確率の高低をもたらす可能性のある説明変数を提案してもらいます。学生たちは、階級、性別、体力、社会的なつながり、船室の位置などの変数を思い浮かべます。言及されたすべての独立変数について、その説明変数が応答変数にどのような影響を与えたのか、「因果関係のストーリー」や「因果関係のメカニズム」を具体的に説明してもらいます。学生たちは、想定されるメカニズムについてできるだけ正確に記述するよう求められます。

第2ステップでは、(SPSSやRを使い)探索的な定量分析をしてもらいます。ここで学生たちは、男性と女性、異なるクラスの乗客、異なるタイプの乗組員の間に、驚くべき生存確率の差があることを発見します(図1)。なぜこのような生存確率の違いがあるのか?それは私たちの最初の仮説と一致しているのか?学生たちとのディスカッションでは、初期の仮説のいくつかは確認されますが、まだ多くのことが解明されません。例えば、「女性と子どもを優先する」というルールが示されていたのに、なぜ男性が生き残ったのでしょうか?

図1: クラス/乗組員タイプ/性別による生存確率

第3ステップでは、MAXQDAを使っていくつかの証言をオープンコーディングします。

これはおそらく演習の最も楽しい部分です。多くの場合学生たちは、さまざまな証言を読む中で、日常の知識に基づいて立てた仮説がタイタニック号の複雑な状況を捉えるには不十分だったことに驚きます。学生たちからはこんな声があがります。「あっ、乗組員を忘れていた」。私たちは、証言(ここで紹介したものやその他の証言)を時間をかけてゆっくりと見ていき、学生たちに、何が起きているかを自分の言葉で言い換えたり、新しい仮説を挙げたり、コードの候補を提案したりしてもらいます。例えば、以下の最初の抜粋では、「女性と子供を優先する」というルールを適用したことが明確に示されていますが、ボートに乗せる女性がいなければこのルールに従うことはできません!


タイタニック号生存者の証言の抜粋

母がメイドと一緒に乗りこみました。係官は他の女性を呼びましたが、その辺りには誰もいませんでした。そこで男性の乗客を呼んだのです。そこには6人ほどしかおらず、私はそのうちの1人で、みんな乗り込みました。ボートはまだ一杯になっていなかったので、係官は乗組員も何人か乗せました。

Cardeza Thomas

最初のボートが左側から降ろされたとき、私は乗るのを拒みましたが、彼らは特に私を促すことはありませんでした。2番目のボートでは、彼らは他の女性を呼んでいましたが、私の友人が乗ったので、夫は私が乗るように主張しましたた。私は夫が一緒でなければ、と拒否しました。

Smith Mary Eloise

ボートに乗っていた男性たちは、最初は抵抗して降りようとしませんでしたが、係官たちがリボルバーを抜き頭上で発砲したので、男性たちは出て行きました。ボートの準備ができると、私たちは水の中に降ろされ、蒸気船から離れたところまで漕ぎ出されました。船が沈んだのは、それからわずか15分ほどのことでした。

Daniel Buckley

タイタニック号の秩序は驚くべきものだったと思います。押し合いへし合いはほとんどなく、ほとんどの場合、騒ぎの原因は夫を一緒に救命ボートに乗せようとする女性たちでした。男性たちはとても秩序立っていました。

Max Frohlicher

第4ステップでは、最終的なコーディングスキームを学生に見せ、メインコード(filling rules; authority acceptance; way to boatdeck)と重要なサブコードを説明します。学生には、教材全体をこのようにコード化したと想像してもらい、ここからはこれらのコードの助けを借りてデータ分析を続けなければならないと伝えます。ここでは、分析に非常に役立つMAXQDAの[混合研究法]ツールのさまざまな使い方を教えます。

図2: MAXQDAにおけるタイタニックのデータセット

タイタニック号で行われたソーシャルゲームについて理解を深め、生存確率を説明するために何が重要であるか新たなアイデアを得た学生たちには、第5ステップとして、2回目の定量的分析を行ってもらいます。この段階では、救命ボートに乗り込んだ具体的な時間や、タイタニック号のどこから救命ボートに乗り込んだかなどを分析します。ここで学生たちは、定性分析に基づいて抱いた疑いを定量的に示せるようになります。例えば 「女性と子供を優先する」というルールはタイタニック号の左舷と右舷で非常に異なって解釈されました。これにより右舷側の男性の生存確率がはるかに高くなったのです(図3)。これは、学生たちがたどり着いたさまざまな気づきのひとつです。

図3: 性別/右舷・左舷の救命ボート乗込状況(Rで作成したグラフ)

最後に、定量分析と定性分析を組み合わせて得られた因果関係の全体像をまとめます。単一手法の場合よりも、混合研究法によってより多くのことを学んだという事実と、それゆえに私たちの結論がより妥当であることを指摘します。また、今回のケースで混合研究法がうまくいった理由、分析の限界、セリーヌ・ディオンの「My Heart Will Go On」を安っぽいと考えるべきかという問題など、振り返りながら質問します。

(この記事では、MAXQDAのメニューに合わせ「Mixed Methods」=「混合研究法」と訳してします)


About the Author

Anaïd Lindemann is a PhD candidate in sociology at the University of Lausanne. Specialized in sociology of religions, she is writing her thesis on the different forms of discrimination and prejudice against Muslims in Switzerland. She co-wrote and published articles on other topics such as religious diversity, religion/spirituality in prisons and media discourses on immigration. She mainly resorts to quantitative and mixed methods in her research.

Jörg Stolz is Professor of the Sociology of Religion at the University of Lausanne. Combining an explanatory approach with mixed methods, he works on the description and explanation of different forms of religiosity, evangelicalism, secularization, and islamophobia. He is the author of many articles in leading sociology and sociology of religion journals, among them « Explaining religiosity. Towards a unified theoretical framework » in the British Journal of Sociology.

References

Stolz, Jörg, and Anaïd Lindemann. 2019. “The Titanic Game : Introducing game heuristics to mixed methods research.” Journal of Mixed Methods Research:1-23.

Stolz, Jörg, Anaïd Lindemann, and Jean-Philippe Antonietti. 2018. “Sociological Explanation and mixed methods: the example of the Titanic.” Quality and Quantity 53(3):1623-43.

このサイトをフォロー

質的データ分析研究会の最新情報を受け取る

月1~2回、本サイトの更新情報、質的研究や混合研究法、ツールの使い方、イベント情報などEmailで受け取ることができます。